繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い

<1.はじめに>
 
<2.繰延税金資産の回収可能性に関する監査上の基本的考え方>

繰延税金資産(DTA)
①DTAの価値は将来事象の予測・見積に依存している(=粉飾にも使える)
②DTAについては商法上配当の制限なし
 ⇒DTAは一般的に監査上の危険性が高いことを認識しとけ

という訳で
 DTA計上時⇒本当に将来の税金を減らす効果があるか
 毎期監査時⇒回収可能性はちゃんとあるか(なきゃ取り崩す)
を監査人は判断しましょう。

<3.繰延税金資産の回収可能性の判断に関する手順>

ざっくり言うと
スケジューリング⇒①将来減算差異と加算差異相殺 ②タックスプランニング ③将来年度の課税所得(例示区分)

分かりやすいのがあるので細かいのは略

第4回:繰延税金資産の回収可能性|わかりやすい解説シリーズ「税効果」|新日本有限責任監査法人

東芝でアレした新日本のwebページが一番分かりやすいという皮肉。

<4.スケジューリングが不能な一時差異に係る~判断基準>

①スケジューリング不能差異は時期が明確になったタイミングでDTA計上可能
 但し
 貸倒引当金等(=合理的に見積もっても、発生時期を個別に特定するのが難しい)
  ⇒合理的なスケジューリングをしているかぎり、DTA計上可能

②スケジューリング不能差異⇒加算一時差異と相殺不可(時期対応できないから)
 但し
 固定資産圧縮積立金等
  ⇒会社が必要に応じて積立金を取り崩す決定を行えば、相殺可能

<5.将来年度の課税所得の見積額による繰延税金資産の回収可能性の判断指針>

例示区分 繰延税金資産の回収可能性 解消が長期な将来減算一時差異 備忘)例示区分
1 DTA全額の回収可能性あり
全額回収可能性あり
期末における将来減算一時差異を十分に上回る課税所得を毎期計上している。
2 スケジューリング可能な範囲で、DTAの回収可能性あり 業績は安定しているが、期末における将来減算一時差異を十分に上回るほどの課税所得がない
3 5年以内(※1)の課税所得の見積額を限度に回収可能性あり
スケジューリング可能な範囲で回収可能性あり
業績が不安定であり、期末における将来減算一時差異を十分に上回るほどの課税所得がない
4但書 5年以内(※1)の課税所得の見積額を限度に回収可能性あり 欠損金が非経常で、それがなければ課税所得が見込める
4 課税所得が確実な場合、翌期は回収可能性あり 課税所得が確実な場合、翌期は回収可能性あり 重要な税務上の繰越欠損金が存在する
5 原則回収可能性なし 原則回収可能性なし 過去連続して重要な税務上の欠損金を計上している

※1.「将来の合理的な見積もり可能期間(おおむね5年)」


<6.タックスプランニングの実現可能性に関する判断基準>

〇タックスプランニングに係る実現可能性の前提 

タックスプランニング(TP)に基づくDTAの回収可能性判断 

 ⇒資産の含み益等の実現可能性を判断する必要。具体的には↓
 ア.「ホントに売るの?」(=資産売却等についての会社の意思決定・実行可能性)
 イ.「狙った額で売れんの?」(=資産の含み益等に係る金額の妥当性)

〇資産の含み益等の実現可能性に係る監査上の判断

例示区分 判断基準 備忘)例示区分
1 (そもそも十分に課税所得があるので)
繰延税金資産(DTA)回収可能性の検討に、TPによる所得を織り込む必要なし(別格)
期末における将来減算一時差異を十分に上回る課税所得を毎期計上している。
2 以下を満たせばTPによる所得を課税所得見積額に織り込んでOK
ア.売却の意思が明確+売却に経済的合理性がある、可能である
イ.含み益等の金額が契約で確定OR公正な時価っぽい
業績は安定しているが、期末における将来減算一時差異を十分に上回るほどの課税所得がない
3 以下を満たせばTPによる所得を5年以内の課税所得見積額に織り込んでOK
ア.5年以内に売却の意思が明確+売却に経済的合理性がある、可能である
イ.含み益等の金額が契約で確定OR公正な時価っぽい
業績が不安定であり、期末における将来減算一時差異を十分に上回るほどの課税所得がない
4 以下を満たせばTPによる所得を翌期の課税所得見積額に織り込んでOK
ア.売却の意思決定が取締役会の承認等で明確+確実に実行される
イ.含み益等の金額が契約で確定OR公正な時価っぽい
重要な税務上の繰越欠損金が存在する
5 キホン、TPに基づくDTA回収可能性判断不可(雑魚)。
但し「4」の条件を満たしていて、かつ含み益が税務上の繰越欠損金を十分に上回る場合は、翌期の会税所得見積額へ織り込んでOK
過去連続して重要な税務上の欠損金を計上している